共有名義の不動産は売れない?―よくあるケースと注意点を解説

共有名義不動産売却のトリセツ

夫婦や親子で共有するなど、共有名義で持っている不動産も売却は可能です。しかし、いざ売却したいと思っても、共有者全員の同意が必要だったり、手続きが複雑だったりで、二の足を踏んでしまうケースも少なくありません。共有名義の不動産でも、 適切な方法を選択することで、 スムーズに売却することが可能です。本記事では、共有名義の不動産売却に関する疑問や不安を解消し、スムーズな売却に向けて役立つ情報を詳しくご紹介します。

目次

共有名義とは?

共有名義とは、複数の人がひとつの不動産の所有権を持っている状態を指します。複数人で不動産を購入した場合や、被相続人が亡くなり相続人が複数人いた場合などで共有名義になることが多いです。

ここではよくある共有名義のケースについて紹介してきます。

よくある共有名義となるケース

不動産の所有権が複数の人々に共有される「共有名義」は、さまざまな状況で生じます。

  • 夫婦で1つの不動産を共有する
  • 親子で1つの不動産を共有する
  • 兄弟(姉妹)で1つの不動産を共有する
  • 他人と1つの不動産を共有する

夫婦で1つの不動産を共有する

夫婦が共同で出資して不動産を購入した場合、出資金の割合に応じて持分を登記することができます。例えば、頭金や住宅ローンの負担を折半する場合は、それぞれ2分の1の持分となります。夫婦が共同で不動産を購入する場合、持分をどのように設定するかは自由に決めることができます。ただし、持分は登記簿に必ず記載する必要があります。持分を登記しない場合、後々トラブルになる可能性がありますので注意が必要です。

親子で不動産を共有する

親子で不動産を共有するケースは主に3つあります。

  1. 親と一緒に購入した場合

前項で説明したように、親と一緒に住宅や土地を購入する場合、親子で共有名義にすることが可能です。これは、双方の収入を合わせてローン審査を受けることで、より高額な物件を購入できる可能性が高まったり、高齢者単独でのローン契約が難しい場合でも、子の年齢を基準とした返済期間を設定することで、月々の返済額を抑えられるなどのメリットがあります。

  1. 親の不動産を相続した場合

親が亡くなった場合、その所有していた不動産は、法定相続人である子供を含む相続人へ 按分され、相続されます。仮に父親が亡くなり、母親がいる場合、母親と子供は法定相続分に基づき相続します。具体的には、母親が 2分の1 、子供が 2分の1 の相続分となります。

  1. 親から贈与を受けた場合

近年、相続対策として注目されているのが、生前に所有権の一部を移転する「所有権一部移転登記」です。この手法は、被相続人が生前に不動産の一部を将来の相続人に譲渡する登記手続きを行うことで、相続時のトラブルや税金負担を軽減することが狙いです。

兄弟で不動産を共有する

  1. 親からの相続による共有

親が亡くなり、兄弟が法定相続人として不動産を相続する場合に、共有が発生します。

  1. 共同で購入する場合

兄弟が協力して不動産を購入する場合に、共有が発生します。この場合、持分は、購入時の出資金等に応じて自由に設定することができます。

他人と共有する

  1. 共同で購入する場合

友人同士や恋愛関係のパートナー同士で、住宅や土地を共同で購入する場合です。持分は、出資額に応じて決められることが多いです。

  1. 共有者が他人へ売買した場合

他の共有者が共有者の許可なく自分の持分のみを売買した場合、売買相手と共有者となります。これは、親族関係でない第三者が共有者になる一般的なケースです。不動産の全体を売却するには全ての共有者の合意が必要ですが、個々の所有者が自身の持分のみを売却することは可能で、共有名義の不動産が知らぬ間に売却されていた場合、それ自体が違法であるわけではありません。

共有名義のメリットとデメリット

メリット
経済的な負担を軽減できる

購入費用や固定資産税などのランニングコストを共有することで、個人の負担を軽減できます。

相続をスムーズに行える

相続が発生した場合、共有持分に応じてスムーズに遺産分割を行うことができます。

住宅ローンの借り入れが有利になる

夫婦共有名義の場合、2人の収入を合算することで、より高額な住宅ローンを借りられる可能性があります。

デメリット
売却や処分が難しい

共有名義者全員の同意が必要となるため、売却や処分がスムーズに進まない可能性があります。

トラブルが発生しやすい

共有名義者間の意見の不一致や、金銭的なトラブルなどが発生しやすいです。

離婚時に争いになる可能性がある

夫婦共有名義の場合、離婚時に財産分与に関する争いが発生する可能性があります。

共有名義の不動産を売却するには?

全員の同意が必要

共有不動産を売却する場合は、共有者全員が売却に同意する必要があります。民法第251条では、以下のように定められています。

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

引用元:民法第251条

「変更を加える」とは増築や売却を指します。この条文に基づき、共有者全員の同意がない限り、不動産の売却手続きは進めることができません。共有者の中にひとりでも売却に反対する人がいた場合、売却は実現できません。

ただし、例外があります。共有持分のみを売却する場合は、全員の同意は必要ありません。以下で詳しく解説します。

自分の持分を売却する

共有不動産であっても、自分の持分のみを売却することは可能です。ただし、いくつか注意する項目があります。

共有者への事前説明と合意

自分の持分のみを売却する場合でも、他の共有者には事前に説明し、合意を得ることが望ましいです。共有者によっては、売却に反対したり、売却価格に不満を述べたりする可能性があります。トラブルを避けるためにも、共有者とのコミュニケーションを十分に行い、理解を得ることが重要です。

買主の選定

自分の持分のみを売却する場合でも、買主は慎重に選ぶ必要があります。他の共有者に迷惑をかけたり、トラブルに発展したりするような買主は避けなければなりません。不動産会社に仲介を依頼する場合は、信頼できる業者を選ぶことが大切です

共有物分割請求

自分の持分のみを売却した場合、他の共有者から共有物分割請求される可能性があります。共有物分割請求とは、共有状態の不動産の共有状態を解消するための請求です。共有物分割請求が認められた場合、現物での分割が可能であれば現物分割、難しいようであれば競売による売買代金の分配や共有者の内の1人を所有者にして、他の共有者は金銭によって精算する価格賠償による分割といった方法によって共有状態を解消する場合があります。

自分の持分のみを売却する場合でも、他の共有者との協力や手続きが必要です。比較的シンプルな手続きではありますが、事前に十分な準備と検討が必要です。トラブルを避けるためにも、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

他の共有者に買い取ってもらう

共有名義の不動産を自分の持分だけ売却する場合、共有者へ買い取ってもらう方法があります。共有者全員の同意がなくても売却できるため、スムーズな現金化が期待できます。

ただし、必ずしも共有者が買い取ってくれるとは限りません。共有者が家を単独名義化したいと考えている場合などは、買取に応じてもらえる可能性が高いです。

共有者へ売却する際には、売却益が発生すると譲渡所得税が課税されます。また、評価額よりも安く売却すると贈与税が課される場合があるので注意が必要です。

共有名義の不動産をスムーズに売却するための方法

事前に共有者間で話し合いをする

全員で同意して売却する場合も、自分の持分のみを売却する場合も、いずれにしても、売却活動を行う前には共有者間で十分な話し合いを行うことが重要です。共有者間で売却価格やスケジュール、分担などについて意見が食い違ったり、感情的になって話し合いが進まなくなったりするなどにより、スムーズに売却が進まないケースも少なくありません。このようなトラブルを避けるために、事前に共有者間で以下の点についてしっかりと話し合い、共通認識を持つことが重要です。

事前に話し合うべき内容
  • なぜ売却するのか
  • 共有名義全体を売却するのか、共有持分のみを売却するのか、などの売却方法
  • (共有者全体で売却する場合)いくらで売却したいのか
  • (共有者全体で売却する場合)売却益をどのように分配するのか
  • (共有者全体で売却する場合)不動産会社はどの会社にお願いするのか

不動産会社選びのポイント

共有名義の不動産を売却する場合、通常の不動産売却とは異なる点に注意する必要があります。共有者全員の合意が必要となるだけでなく、共有持分のみを売却する場合と、不動産全体を売却する場合で、必要な手続きや注意点も異なります。

  1. 共有名義不動産売却の経験が豊富な会社を選ぶ

共有名義の不動産売却は、通常の不動産売却よりも複雑な手続きや、共有者間の調整が必要となるため、経験豊富な会社を選ぶことが重要です。共有名義不動産売却に関する専門知識やノウハウを持っている会社であれば、スムーズかつ円満な売却をサポートしてくれるでしょう。

  1. 共有持分のみの売却にも対応している会社を選ぶ

共有持分のみを売却したい場合は、共有持分買取業者と呼ばれる専門業者に依頼する必要があります。通常の不動産会社の中には、共有持分のみの売却に対応していないところもあるので、事前に確認しておくことが大切です。

  1. 共有者全員とのコミュニケーションを重視する会社を選ぶ

共有名義の不動産売却には、共有者全員の合意が必要となります。そのため、共有者全員とのコミュニケーションをしっかりと取り、それぞれの意見を尊重してくれる会社を選ぶことが重要です。

  1. 相続対策に詳しい会社を選ぶ

共有名義の不動産の中には、相続によって共有名義になったものも多くあります。相続に詳しい会社であれば、相続対策についてもアドバイスしてくれるでしょう。

  1. 複数の会社から見積もりを取る

複数の会社から見積もりを取ることで、比較検討することができます。仲介手数料や査定額などを比較し、自分に合った会社を選ぶようにしましょう。

専門家のアドバイスを受ける

共有名義の不動産売却に関する専門家としては、弁護士、税理士、不動産屋などがいます。それぞれの専門家には得意分野があるので、自分の状況に合った専門家を選ぶことが重要です。

  • 弁護士:法的な問題に関するアドバイスを得たい場合は、弁護士に相談しましょう。
  • 税理士:税金対策に関するアドバイスを得たい場合は、税理士に相談しましょう。
  • 不動産屋:不動産の売却に関するアドバイスを得たい場合は、不動産屋さんに相談しましょう。

共有名義の不動産売却の注意点

共有者の確認は入念に

共有名義の不動産を売却する場合、共有持分権者を把握することは非常に重要です。共有持分権者とは、不動産を共同で所有する権利を持つ人のことです。

共有持分権者は、夫婦、親子、兄弟姉妹など、様々な関係性の人々である可能性があります。マイホーム購入による夫婦共有名義や二世帯住宅の親子共有名義など、比較的わかりやすいケースもありますが、相続によって複数の共有持分権者が存在する場合は、状況が複雑になることがあります。

特に、相続を経た古い共有持分の場合、共有持分権者が誰なのか分からないケースもあります。このような場合、不動産会社や司法書士に相談し、共有持分権者を確認する必要があります。

共有持分権者を把握することは、売却手続きを円滑に進めるために不可欠です。早めに専門家に相談し、共有持分権者に関する問題を解決しておきましょう。

持分割合を把握する

持分割合は売却代金の分配方法を決めるために必要です。持分割合が曖昧だと、不公平な分配が生じ、共有者間で紛争が起こる恐れがあります。不動産登記簿謄本には、共有者全員の氏名と住所、および共有持分が記載されています。これは、持分割合を確認する最も確実な方法です。

不動産を取得した経緯や状況によって、共有持分は必ず等分とは限りません。

共有名義の不動産を高く売却する方法

査定価格の比較をする

売却査定は、複数の不動産会社から受けることをおすすめします。 なぜなら、会社によって査定価格、査定方法、売却時の条件などが大きく異なるためです。複数の査定結果を比較することで、より高値で、より良い条件で売却できる可能性が高くなります。しかし、査定金額はあくまで目安であり、必ずしもその金額で売れるという保証はありません。 査定会社を選ぶ際には、なぜその査定金額になったのか、どのような査定方法を用いたのか、査定結果の根拠を 明確に示してくれる会社を選びましょう。

共有者全員が納得できる条件で売却するためには、各社の査定結果を丁寧に比較し、査定方法や根拠を明確に示してくれる会社を選ぶことが重要です。 また、共有者全員の意見を尊重し、納得いくまで説明してくれる会社を選ぶことも重要です。

修繕・リフォームを行う

リフォームやリノベーションを行うことで、物件への印象が向上し、買主が見つかりやすくなり、スムーズな売却と高値売却の可能性が高まります。ただし、リフォーム内容が買主のニーズに合致していない場合や、中古物件購入後に自分でリフォームしたいと考える買主も一定数存在するため、慎重に検討する必要があります。

共有不動産をリフォームする場合、共有者全員の合意が必要です

原則として、費用負担は持分に応じて行います。 つまり、Aさんが4分の3、Bさんが4分の1の持分であれば、Aさんはリフォーム費用の4分の3、Bさんは4分の1を負担することになります。

しかし、共有者間で個別に交渉することも可能です。 例えば、Aさんがリフォーム費用を全額負担する代わりに、売却益を多く分配してもらうという合意をすることもできます。

個人で負担する場合は、売却金額の割合について事前に話し合っておきましょう。 具体的な割合を決めておくことで、後々のトラブルを避けることができます。

リフォームの内容、費用負担、スケジュールなどを書面で明確にしておくことが重要です。書面化することで、後々のトラブルを防止することができます。合意書は、共有者全員で作成し、署名捺印しましょう。2部作成し、各共有者が1部ずつ保管しておくことをおすすめします

共有名義の不動産売却に関するQ&A

売却にどれくらい時間がかかる?

共有名義不動産の売却期間は、3ヶ月から6ヶ月が一般的です。共有者全員の合意形成や市場状況などによって、短くなったり長くなったりすることもあります。

特に、共有者全員への連絡や合意形成に時間がかかる場合や、市場に買い手が少ない場合は、売却期間が長くなる可能性があります。

一人が反対している場合

共有名義不動産を売却するには、共有者全員の合意が必要です。一人がでも反対すると、売却することはできません。時間をかけてでも話し合いを行い、売却についての合意を形成する、もしくは反対している共有者に、自分の持分を買い取ってもらうことが検討できます。

自分の持分のみを売却することも可能ですが、新たな共有者と共有することになり、後々トラブルに発展する可能性が高いため、おすすめしません。

共有名義の不動産売却の成功事例

離婚に伴い、夫婦共有名義のマンションを売却

状況

夫婦共有名義のマンションを離婚に伴い売却
売却益の分配方法について夫婦間で意見が対立
住宅ローンが残っており、売却手続きが複雑

解決策

不動産会社だけでなく、弁護士にも相談し、法的なアドバイスを受ける
夫婦間で話し合いを重ね、売却益の分配方法を合意

結果

夫婦間で合意の上、円満に売却
住宅ローンの完済により、今後の生活設計を立てやすくなった

相続で取得した築30年戸建てを、兄弟姉妹で協力して売却

状況

築30年以上の戸建てを、兄弟姉妹3人で相続
共有名義の名義変更手続きが完了しておらず、売却手続きが複雑
それぞれ遠方に住んでおり、売却活動に十分な時間を割けない

解決策

相続専門の弁護士に相談し、名義変更手続きをスムーズに進める
経験豊富な不動産会社に依頼し、遠隔地でもスムーズに売却活動を進める
定期的に電話やメールで連絡を取り合い、共有者の意見を尊重しながら売却を進める

結果

希望価格に近い価格で売却
共有名義人間でトラブルなく売却を完了

まとめ

共有名義の不動産売却は、共有者全員の合意が必要となるなど、通常の不動産売却よりも複雑な手続きが必要です。しかし、適切な方法を選択することで、スムーズに売却することができます。

本記事では、共有名義の不動産売却に関する疑問や不安を解消し、スムーズな売却に向けて役立つ情報を詳しくご紹介しました。共有名義の不動産売却でお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。

また、共有名義の不動産売却は、専門的な知識や経験が必要となるため、専門家に相談することをおすすめします。

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この記事を書いた人

1978年生まれ
群馬県藤岡市出身
株式会社三ラージ(スリーラージ)
代表取締役 社長
宅地建物取引士

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