親名義の不動産を●●資金にするには?名義人以外が売る方法と売却益を贈与する場合の注意点を解説

親名義の不動産の売り方と贈与税について

親名義の不動産を売却することは、さまざまな理由で検討されることがあります。例えば、空き家になった実家を維持する負担を軽減したり、その売却益を別の資金に充てたりする場合です。

しかし、所有者が高齢であったり、自ら手続きを進めることが難しい状況では、契約が無効になる場合があり、子どもや家族が代理で売却手続きを行う必要があります。このようなケースでは、特別な手続きや法的な書類が求められ、通常の売却プロセスとは異なる点に注意が必要です。

また、売却代金を子どもに贈与する場合は、贈与税がかかる可能性があります。

この記事では、名義人以外の人が不動産を売却する2つの方法と、贈与で知っておくべき注意点について詳しく解説します。

目次

名義人以外は売却できない


不動産を売却する際には、所有権の明確化が極めて重要です。そのため、名義人以外の人物が不動産を売却することは基本的にできません。名義人とは、不動産の登記簿に記載されている所有者のことを指し、法的にその不動産の権利を持っていると認められています。

名義人が遠方に住んでいたり健康上の理由で売却の手続きを直接行えない場合も少なくありません。親が委任状を書いて代理で契約する方法、親が認知症になった場合の売却方法、売却費を子どもが受け取りたい場合の売却の注意点について解説します。

親の代理で売却する

親名義の不動産を売るには代理人として売却を行う方法があります。代理人とは、本人に代わって法律行為を行う権限を持つ人物のことを指します。代理人は、本人に代わって契約を締結したり、法的手続きを行ったりすることができます。代理行為は、本人が委任状などの法的文書を通じて代理人に正式に権限を与えることで成立します。

委任状は特に決まった書式がありませんが、委任者(所有者)/代理人の氏名、住所、生年月日は必ず記載し、委任者、代理人共に捺印をしましょう。また、トラブル防止のためにも以下の付与する権限等を明確にしておき、委任状に記載しましょう。

付与する権限の例

  • 所有権移転登記申請及び司法書士の選任
  • 売買契約の締結
  • 手付金及び売買代金の授受
  • その他不動産に関する一切の権限

ただし、売買契約時には所有者へ意思確認があり、売却に対して合意をいただけない場合は代理人が親族であっても契約が無効となる可能性があります。

委任状は不動産会社で用意している場合が多くありますので売却を考えた際はまずは不動産会社に相談すると良いでしょう。

代理と似たものに使者(ししゃ)があります。使者とは所有者のメッセージや指示を買主や不動産会社に伝える役割をいいます。代理人は所有者の代わりに契約の締結や意思決定の自由がありますが、使者は伝達するだけで、法的行為を行う権限は持ちません。

親が認知症になった場合の売却方法

親が認知症となり、施設に入居することになった、ご自身の家族との同居を検討しているなどにより、実家が空き家になる場合、売却を検討するケースも少なくありません。しかし、認知症になると判断能力がないとみなされ、契約が無効になってしまう可能性があります。所有者が認知症の場合、所有者自身が代理人を選定する意思確認ができないという問題があり、委任状を持っていたとしても、その代理権が無効とみなされる可能性が高いです。

このような場合、成年後見制度の利用が必要になります。成年後見制度とは、判断能力が不十分な高齢者や障害者の権利を守り、生活や財産管理をサポートする制度です。成年後見人は、家庭裁判所によって選任され、認知症の親に代わって財産の管理や契約の締結を行うことができます。

成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に成年後見の申立てを行います。この申立ては、親族や本人、または市区町村長などが行うことができます。申立てが受理されると、裁判所は医師の診断書や関係者からの意見をもとに判断し、適切な成年後見人を選任します。

成年後見人が選任されると、売却の手続きを進めることが可能になります。成年後見人は、被後見人(不動産の所有者)の最善の利益を考慮し、不動産の売却や賃貸借契約の締結、銀行口座の管理などを行います。また、成年後見人には定期的に家庭裁判所への報告義務があり、その活動は裁判所によって監督されます。

法定後見制度を利用した売却の手順や注意点については詳しく別の記事でもご紹介していますので参考にしてください。

親が亡くなった場合の売却方法

名義人である親が亡くなった場合、相続登記せずに売却することはできません。相続登記が完了していないと、所有権移転登記ができず、売却自体が成立しません。また、2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続登記を怠ると過料が課される可能性があります。

相続した不動産を売却するためには、まず登記事項証明書を取得して物件の詳細を確認することが重要です。次に、被相続人と相続人の戸籍謄本などを収集し、相続関係を正確に把握します。その後、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。この手続きを経て、必要な書類を揃えたら法務局に相続登記を申請します。

相続登記が完了したら、不動産会社に媒介契約を結んで売却活動を開始することができます。ただし、相続手続きは複雑であり、特に相続人間での話し合いがまとまらない場合や、被相続人に借金がある場合などは、手続きが一層難しくなります。こうした場合には、弁護士や司法書士などの専門家の助けが必要です。専門家に相談することで、複雑な手続きやトラブルを回避し、スムーズに手続きを進めることが可能となります。

相続登記、不動産売却の流れについては別の記事で詳しくご紹介しています。

贈与目的で売却する場合には贈与税に注意

子どもの住宅購入の頭金や学費などに充てるために親が所有している不動産を売却して売却代金を活用しようと考える方は少なくありません。しかし、不動産を売却して得たお金は原則として名義人(親)が受け取るため、この資金を子供に移転する場合、贈与税がかかります。不動産を子どもに贈与してから売却する場合も同様で贈与税の支払いが必要です。

贈与とは、特定の人に何かを無償であげることです。例えば、親が子どもにお金や不動産をあげたり、友人や家族に贈り物をしたりすることが贈与です。贈与は無償で行われるものであり、受け取る側は対価を支払う必要がありません。ただし、一定額を超える贈与にはその贈与額に対して贈与税がかかり、贈与を受けた側は、贈与税の支払いをする必要があります。

現金は贈与した金額に対して贈与税が課税されますが、不動産の場合は土地や建物の相続税評価額で贈与額が計算されるため、現金で贈与する場合と課税対象額が異なる可能性があります。

ここでは利用できる贈与税の控除についてのご紹介についてご紹介します。

利用できる贈与税の控除

贈与税の課税方法には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があり、受贈者(もらった人)は贈与者(あげた人)ごとにそれぞれの課税方法を選択できます。それぞれで控除が異なりますので特徴を良く理解し、ご自身の状況にあった選択が重要です。

暦年課税

暦年課税とは、1年間(1月1日~12月31日)に受けた財産の合計額を基に贈与税額を計算するものです。暦年課税の場合、年間で贈与された財産の総額から基礎控除額110万円が差し引かれ、残りの額に贈与税がかかります。そのため、年間の贈与額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。

贈与税の計算は下記の表にて計算します。課税価格は基礎控除後の110万円を引いた金額を当てはめます。

<特例贈与財産用>

父母や祖父母から贈与により取得した財産にかかる贈与税の計算に使用します。

基礎控除後の課税価格200万円以下400万円以下600万円以下1,000万円以下1,500万円以下3,000万円以下4,500万円以下4,500万円超
税率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円30万円90万円190万円265万円415万円640万円

例えば、評価額500万円の土地を親から子へ贈与した場合、

不動産評価額500万円-基礎控除110万円=390万円

390万円×15%-10万円=48.5万円の贈与税を支払う必要があります。

相続時精算課税

相続時精算課税とは将来相続が発生した時点で相続税と贈与税をまとめて精算する仕組みです。贈与者が亡くなったときに贈与財産と相続財産とを合計した価額を基に相続税を計算し、すでに納付した贈与税額を控除するものです。相続時精算課税の適用を届け出ると2,500万円までの贈与額が控除される特別控除枠が設定されます。また、令和6年以降の贈与については2,500万円の特別控除とは別に110万円の基礎控除が追加されました。控除額を超過した贈与に対して一律20%の税率を乗じて贈与税額が計算されます。

子どもや孫が一時に多額の資金が必要になった際、2,500万円までであれば税金を支払うことなく多額の贈与が一時にできるメリットがあります。ただし、贈与税がかからないといっても、贈与された財産の額は相続時に相続財産として加算され、相続税の計算に含められます。また、相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻せませんので慎重に選択しましょう。

相続時精算課税を適用した贈与財産は、相続開始のときには贈与時の評価額で相続財産の額と合計されて相続税の課税対象になります。今後評価額が上がりそうな不動産であれば相続税対策にも繋がります。

結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

親や祖父母から結婚や子育てに使う資金を一括で贈与した場合、贈与税が非課税になる仕組みです。受贈者は18歳以上50歳未満であることが条件で、非課税になる限度額は贈与を受ける受贈者1人あたり1,000万円です。このうち結婚のための費用は300万円が限度額となります。また、暦年課税の基礎控除相続時精算課税の特別控除との併用ができます。

まとめ

不動産の売却には、所有権の明確化が極めて重要です。名義人以外の者が不動産を売却することは基本的に認められていませんが、代理人や成年後見制度を活用することで対処できる場合もあります。また、相続登記や贈与税についての理解も必要です。資金の移動や売却に関する詳細は、専門家の助言を受けることが肝要です。

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この記事を書いた人

1978年生まれ
群馬県藤岡市出身
株式会社三ラージ(スリーラージ)
代表取締役 社長
宅地建物取引士

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